なんとなく、暮らしてる

800文字程度の雑文

小説「夜明け前」の感想

馬篭本陣の当主青山吉右衛門の息子半蔵の生涯を描いたこの小説は全四巻からなる長い小説である。
黒船来航から明治19年までの約30年間を描き、外面には黒船の来航、桜田門外の変和宮様の降嫁、戊辰戦争、そして明治維新があり、内面には国学の徒として国事に奔走したいが、本陣としての務めを果たさなければならない半蔵の葛藤がある。
世の中が目まぐるしく変転する激動の時代に生まれた子供が青年となり、結婚して親となり、祖父となって最後は土の下に還っていくというドラマと、生母との死別、友人の死、新しい時代への希望と失望、親と子の悲哀という普遍的テーマ。
第一巻から一人の生涯を追っていると当然色々な場面に際会するわけであるが、人間があらゆる苦悶から解放される瞬間である死の場面とそれに続く葬式の場面がとてもよかった。
この深みは一人の人生を30年に渡って描く長編小説というジャンルと島崎藤村にしか出せないだろう。文学としても歴史小説としても面白かった。