なんとなく、暮らしてる

800文字程度の雑文

映画「天国と地獄」の感想

ナショナルシューズ重役の権藤金吾の元に「子供を誘拐した。3000万円よこせ」と言う電話が入る。身代金目的の誘拐事件である。
ところが誘拐されたのは金吾の息子ではなくお抱え運転手青木の息子であるということが判明。
犯人は子供を取り違えてしまったのだ。
そこで機転を利かせた犯人は「他人の子供とはいえ見殺しにすることはできないだろう」と構わず身代金を要求する。

この犯人はどういう人物なんだろうか、といろいろ推理(邪推)しながら映画を見た。しかし全ては外れた。
昨今の二重三重にトリックが張り巡らされたサスペンス映画に慣れている現代人からすると推理する必要もないくらい話は単純、というか直線的だったからだ。
だから物足りなさすら覚えるけれどこの映画は面白い。
物語を装飾している役者の演技力の高さとロケーションに見応えがある。

社内の権力争いに息を巻く近藤金吾(三船敏郎)の荒々しい演技、 捜査の指揮をとる戸倉警部(仲代達矢)が見せる犯人への執念。
事件の関係者だけではない。
汗にまみれた靴工場の工員(東野英治郎)、瓦礫の中で働く痩せ細った火夫(藤原釜足)、横浜駅の乗務員(沢村いき雄) ドヤ街の麻薬患者たちの目つき…
画面はまるで昭和40年代の風景をそのまま切り取ったかのようなリアリティで溢れている。
生活臭が漂ってくるかのようなこの映画の中には、天国に行けるような善人もいなければ地獄に落ちなければならない悪人もまた出てこない。しかと地に足のついた映画だと思った。